5.おわりに
かつては編集が困難であったマルチメディア素材が簡単にデジタル編集できるようになることで、多彩な学習オブジェクトの再利用と共有が容易になってきた。テキストのメディアがデジタル化されるようになるのにはさほど時間はかからなかったし、デジタルデータの流通、再利用、そして再編集はかなり簡単であった。もちろん、パソコンにキーボードを通じて入力した段階でデジタル化されるのであるから、テキスト情報については、ネットワーク上での流通という面では元来非常に有利であったはずである。
しかし、音声や動画となるとデジタル化への道のりはかなり困難であったし、素材の流通、再利用、また再編集はまだ簡単に行える状況にあるとはいえない。しかしながら、TTS技術はこのようなマルチメディア素材の扱いを非常に単純にしてくれる。今までアナログ時代から、最も扱いが困難であったマルチメディア素材が、テキスト素材同様に簡単に再利用や再編集ができるようになるとすれば、そのインパクトは計り知れない。
現在、いわゆるWeb 2.0の時代に入り、Podcast、RSSなどからもわかるようにデジタル素材の流通、再利用は簡単に実現できるようになってきている。また、YouTubeやGoogle Newsなどに代表されるcontent aggregationサービスも容易に利用できるようになってきている。梅田(2006)も述べているように、かつて「過激な少数意見」をもつ人たちのものであったオープンソースが今日では当たり前になり、普通の若者が簡単にBlogを書き連ねる時代となった。一般の人々にとっても「ネットの中で生活する」ことは極めて簡単な時代となってきている。学生や主婦の間で人気が高まっているソーシャルネットワークMIXIにしても、使いこなすのに別段特殊な学習が必要なわけではない。しかし、そのバックグラウンドにある技術はWeb 2.0時代の最新のものが使われている。このようにインフラが整備されることによって、梅田(2006)の言うような「チープ革命」が必然的かつ急激に進行しつつある。誰にでも使えるネットワークインフラの整備により、コンテンツの更新やその流通の速度が急激にアップしているのである。それに伴い、あらゆるコンテンツの希少価値はますます低下していき、誰でもがレアなコンテンツを手軽に入手できるようになってきている。もちろん、教育に利用されるコンテンツ、つまりLearning Objectについても同様である。これだけネットワークのソフト、ハード面でのインフラが進んできているのに、コンテンツのオーサリングが手間取るようであれば、意味がないであろう。輸送システムが整備されているのに、製品の梱包が大変手間取って流通がままならないのと同じ状態である。すでにAzuma(2006)でも述べたが、もしも、マルチメディアファイルのオーサリングに手間取るのであれば、それこそYahoo!やGoogleないしはYouTubeなどで検索してインターネット上で流通している同等のファイルを他から探してくる方が早いということになってしまうだろう。この意味でも、テキストから瞬時に音声ファイルを生成できるTTS合成音声技術のもつインパクトは大きいといえる。
TTS合成音声の利用により、英語教育現場での大幅なコスト削減が可能となる。これは逆に考えれば、特にリソース不足な分野においてこそTTS合成音声の利用のメリットは大きいということにもなる。現在英語科目必修化の可能性がクローズアップされる中で、とりわけリソース不足が指摘される小学校での英語教育現場および担当教員向け英語研修プログラムにおいて、TTS合成音声の活用は大いに期待されるところである。
今後は今回取り上げたPentax社のもののみならず、AT&T社やCepstral社など他の企業の音声合成システムも調査し、比較研究および小学校英語教育も射程に入れた教育利用のためのさらなる実用化実験を行いたい。
参考文献
Azuma, Junichi (2006). “Creating “Micro” Exercises Utilizing TTS (Text-To-Speech) Technology: New Horizons in Foreign Language Teaching,” Paper presented at Microlearning2006 (Micromedia & e-learning 2.0 – Gaining the Big Picture) on June 9, 2006, Innsbruck, Austria.
梅田望夫(2006).『ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』筑摩書房.

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